えひめ水産イノベーション

~持続可能なえひめ水産イノベーションシステムの構築~

平成24年度文部科学省「地域イノベーション戦略支援プログラム」

モデル海産魚を用いた新魚種の成長・成熟機構の基盤研究

愛媛大学 南予水産研究センター 助教 柳 蓉沄(リュウ ヨンウン)

愛媛大学 南予水産研究センター 助教 柳 蓉沄

 平成20年2月に韓国濟州大学大学院海洋生命科学科修士課程終了後、同大学海洋と環境研究所特別研究員、平成21年4月に北海道大学大学院水産学研究科博士課程入学、文部科学省国費留学生となり、平成24年7月より現職。専門は魚類の繁殖生理で、成熟産卵調節や卵の脂質形成機構の解明について研究をしてきた。本事業では、カツオ一本釣りの「まき餌」を確保するため、カタクチイワシの成長・成熟・産卵に関する基礎研究を行い、成長抑制技術や産卵誘導技術を開発し、海面養殖による安定供給システムの構築に取り組んでおり、これらの研究を通じて地域産業の力になりたいと考えている。


 

1. 研究内容

 本事業は、愛媛県南予地域において重要な地域ブランドの一つであるカツオの水揚量を安定化させるため、カツオ一本釣り漁業の生命線とされているまき餌用カタクチイワシの安定供給を目的としています。カタクチイワシは養殖対象種ではないことから、本種の成長や生殖に関する基礎的な知見や養殖のための基盤情報が不足しているため、まず、海面生簀や陸上水槽など飼育環境下において成長や成熟の応答機構を観察し、そこで得られた情報をもとに地域のニーズにマッチする養殖技術を構築します。また、地元の伝統漁業を利用した天然稚魚(シラス・カエリ)の捕獲装置や地域に適した育成技術の開発にも取り組み、地域での産業システムを構築します。

カツオ一本釣りまき餌の安定供給

一方、カタクチイワシをモデル魚として、海産魚の生殖生理に関する基礎的メカニズムを解析していくことで、他の有用海産魚にも応用できる情報を蓄積し、日本一の養殖生産地である愛媛県において新規養殖魚の開発に技術転換できることを目指しています。

 

2.研究成果

 初年度(H24)は、飼育下のカタクチイワシの成長および成熟の特性を観察しました。その結果から、飼育期間や体長増加に伴う変態の進行段階および成長の変化が確認でき、ハンドリングや輸送が可能になる時期(変態完了時期)、また出荷サイズ(7cm)に到達するまでかかる時間(シラスから飼育下、約3ヶ月)が分かりました。また、温度変化による成熟開始時期(水温20度以上、6月)も観察できました。一方、天然シラスを大量に捕獲し、生きたまま輸送・搬入するために、シラス捕獲装置である「シラストラップ」と「トラップ輸送船」の開発にも取り組みました。

 平成25年度には、海面生簀での育成試験を開始すると共に、様々な経路からの供給システムを構築するために、飼育環境下でカタクチイワシの産卵特性を調べることに加え、1トン水槽を用いて種苗生産試験を行いました。そこから、本種の産卵条件や特性に関する基礎的な情報を得ると共に、光条件や給餌(栄養分)を調節することで、持続的な受精卵の獲得が可能になり、小規模での種苗生産も可能であることが示されました。それから、目的に合う効率的な給餌頻度を探索することを目指し、給餌制御による成長・成熟の変化を観察した結果、成熟誘導や産卵親魚の育成には1日2回以上の給餌がよく、まき餌の育成には1日1回が効率的であることを分かりました。しかし近年、魚粉の価格が上がっていることから、生産まで掛かるコストを軽減させるためには、飼料の成分調節(低魚粉および魚粉代替タンパクなど)や自然の餌(プランクトンなど)の利用方法の検討が必要になりました。一方で、初年度に開発されたシラストラップと輸送船を用いて海面試験を行うことで、実用的な捕獲と輸送に適合するように改良しました。

 昨年度は、改善された初期モデルのシラストラップと輸送船を用いて実際に捕獲・輸送試験を行い、大量のシラスを捕獲し安定的に輸送・搬入させることに成功しました。また、初期モデルの開発に当たり本システムを事業化するためには、もっと大型化、軽量化、簡便化された、より効率的な新たなシラストラップの開発が必要だと判断し、これら改良点に着目し、より産業に近づいた新たなトラップを作製しました。今年度の秋からは、開発された新型トラップを用いて捕獲試験を行い、改善・改良していくことで、事業化モデルの完成を目指します。

 一方、海面育成技術の低コスト化に着目し、水中LED電灯(以下LED)を用いた育成方法を検討しました。まず、LEDによる天然飼料生物の摂餌効果を調べた結果、対照群に比べLED設置群の個体で大量の天然飼料生物を摂餌していることが確認できました。さらに、対照群では試験2日目から大量の死亡が観察され、LEDによる壁(網の側面)の認識や安定化(スレの防止)の効果も示唆されました。そして、有効性の検証のために、四方5mの海面生簀を用いて育成試験を行った結果、LED群から対照群に比べ有意に高い体重の増加や生殖腺重量指数(生殖腺重量/体重*100)の増加が見られ、水中LED設置が成長および成熟の誘導・加速化に有効であることを確認しました。今後は、より小型の個体(カエリ)を用いて大型の生簀(15m四方)で試験を行い、生産(販売)までに掛かるコストの軽減効果を検証すると共に、歩留まりを高める効果も詳しく確認していきます。

 昨年度は、本種の成長および成熟・産卵特性をより詳細に解析するため、孵化から産卵まで全ての発達段階の個体をサンプリングしました。また、卵質の改善に必要な基盤情報を得るために、卵形成(蓄積)機構に関する基礎研究を行い、本種卵の主たる脂質成分や蓄積経路、また卵黄タンパク質の蓄積や変化に関する基礎情報を得ました。今後は、これら研究から得られた基礎的な知見に加え、遺伝子および生化学、細胞学的な解析を持続的に行っていくことで、カタクチイワシをモデル海産魚として用いるための基盤情報を蓄積します。

 

3.事業化への展望

 本研究は下の図に示すように、カツオ一本釣りまき餌の安定供給を出口として、様々な経路の養殖システムを想定しています。そして、それらの技術確立のためのプロセスとしてカタクチイワシをモデル種とした様々な養殖基盤研究を行っています。そこから得られた成果は、地域イノベーション戦略の一環として地域に還元されます。すなわち、開発した機材及び技術のノウハウを当地域の漁業協同組合や水産業者へ移転し、実証試験を連携して進めることで産業化への役割を果たします。これらによって、地域におけるカツオ一本釣り用まき餌販売企業、漁業協同組合、大学、行政が連携を図り、高品質生鮮カツオ水揚げの拠点化による地域産業活性化が期待されます。


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