えひめ水産イノベーション

~持続可能なえひめ水産イノベーションシステムの構築~

平成24年度文部科学省「地域イノベーション戦略支援プログラム」
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ICT等を利用した海域情報ネットワークによる
赤潮・魚病対策技術の研究開発

愛媛大学 南予水産研究センター 准教授 清水園子

愛媛大学 南予水産研究センター 准教授 清水園子

 平成16年3月に九州大学大学院生物資源環境科学府動物資源科学専攻博士課程終了後、愛媛大学沿岸環境科学研究センター科学技術振興研究補助員、同大学博士研究員、同大学南予水産研究センター特定研究員を経て、平成23年4月に愛南漁業協同組合職員となり、平成24年7月より現職。専門は、魚病学、水産環境学で、宇和海で発生する魚病や赤潮について研究してきた。本事業では、養殖業で問題となる有害赤潮プランクトンや魚病病原体の高感度早期検出技術を開発し、赤潮や魚病の発生メカニズムの解明や発生予察に取り組みたいと考えている。


 

1. 研究内容

赤潮プランクトンと病原体の高感度モニタリングシステムの確立

 現在、赤潮や魚病の検出は発生後に顕微鏡観察や病理検査などで特定しており、すでに被害が拡大していることがあります。本研究では有害赤潮プランクトンや病原体の遺伝子情報を利用して、発生前の低濃度でも養殖環境から検出できる高感度モニタリングシステムを開発します。このことにより、赤潮や魚病の発生の早期検出が可能となります。

赤潮・魚病の発生メカニズムの解明

 赤潮や魚病の発生には、水温や水質など、海水の物理的、化学的要因が関与していることが考えられます。特に宇和海では、急潮や底入り潮という特徴的な潮流が見られ、関与していると思われます。さらに、海水中には有害赤潮プランクトンや魚病病原体を捕食またはこれらに感染した微生物や、寄生虫の中間宿主となる生物なども存在すると考えられており、それら生物と赤潮・魚病の関係も重要と思われます。そこで、高感度モニタリングシステムで得られた赤潮プランクトンや病原体の出現パターンと水質や潮流などの海域情報の解析や、海水中や底泥などに生息する微生物等に関する遺伝子情報の網羅的な解析などを行うことにより、赤潮や魚病の発生メカニズムを解明します。このことにより、赤潮や魚病発生の予察技術が向上します。

情報ネットワーク網の構築

 赤潮および病原体のモニタリング結果や各種関連因子と海域情報を統合し、赤潮早期警報システムと魚病流行予測システム構築のための情報基盤を整備します。さらに、これらの情報はコンピュータネットワークを用いてリアルタイムで生産者へ情報を提供することで、養殖現場での赤潮・魚病対策が迅速に行われ、被害を大幅に低減することが可能となります。

 

2.研究成果

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 魚類養殖で大量斃死を引き起こす有害赤潮プランクトンの代表種として、シャットネラ、カレニア、ヘテロシグマ、コクロディニウムの4種があります。この研究では、すでにこの4種の高感度測定系を開発しており(特願2014-021749)、愛南町海域でのモニタリングを行っています。(図1)

 愛南町海域でのモニタリングを行っています。平成24年と26年に宇和海で漁業被害を出したカレニアや平成25年に被害を出したコクロディニウムを始め、ヘテロシグマ、シャトネラに関しても、愛媛大学南予水産研究センターがある愛媛県愛南町海域においてモニタリングを行った結果、赤潮発生前の早い時期に顕微鏡では検出できない低濃度レベルでの細胞の増殖を確認することができ、赤潮の発生予測に有効であることが示唆されました。
なお、これら4種のモニタリング結果は愛南町水域情報ポータルサイト(http://www.ainan-gyoshoku.jp/ainanict/portal/index.aspx)にて定期的に公開しています(図2)。さらに、二枚貝養殖で大量斃死を引き起こす有害赤潮プランクトンのヘテロカプサについても、開発した高感度モニタリングにより、宇和海にも本種の遺伝子が低濃度ではあるが存在することを初めて明らかにしており、モニタリングを継続しております。

 高感度モニタリングを通して、赤潮の発生パターンも明らかとなりつつあります。平成24年と26年に、宇和海で大きな漁業被害を出したカレニア・ミキモトイについて、瀬戸内海西部周辺自治体(愛媛県、広島県、山口県、大分県、宮崎県、福岡県)、水産総合研究センターおよび愛媛大学沿岸環境科学研究センターが共同で行った広域調査の結果、この海域で冬から春に検出されるカレニア・ミキモトイの越冬細胞が多く、さらに、夏季の天候不順や潮流の停滞という気象・海象条件が揃えば、大規模発生につながる可能性が高いことが示唆されています(水産庁委託事業)。
また、ヘテロシグマ・アカシヲについては、晴天が続き、降水量が少ない時期に大規模発生する傾向が見られ、これらの条件が、本種の赤潮形成に関与している可能性があると考えられます。

 赤潮プランクトンに加え、魚病に対する早期の予防及び対策につなげるために、魚病病原体の高感度モニタリングの開発にも取り組んでいます。従来、魚病の発生は、死亡魚が増加した時に検査機関へ持ち込まれ、病理診断検査により確認されます。しかし、すでにその病気が流行し蔓延していることが多く、大量斃死や品質劣化などの漁業被害が生じます。そこで、高感度早期検出を行うことにより、予防および早期対策が可能となり、被害の軽減につながります。

これまでに、エドワジエラ症原因菌のエドワジエラ菌、類結節症原因菌である類結節菌、白点病の原因である寄生虫の白点虫、イリドウイルス症原因ウイルスのマダイイリドウイルスなど、6種の病原体について高感度測定系を開発し、モニタリングを開始しました。そのなかで、ブリ類で発生する類結節症の原因である類結節菌は、類結節症が発生する前より海水から検出され、水温の上昇に伴い、海水中の病原体濃度が上昇すること、また、病原体濃度が高い年には、類結節症の診断尾数が多い傾向が見られました。また、マダイで発生する難治性疾病であるエドワジエラ症を引き起こすエドワジエラ菌については、マダイ稚魚で斃死が増加する直前に海水中の病原体濃度が増加する傾向が見られました。寄生虫症の一種である白点病の原因病原体は、病気が発生しやすい秋に底泥に多く、さらに、水深が浅い地点で多い傾向が見られました。これらの結果から、高感度モニタリングがこれら魚病の発生予測に有効である可能性が示されました。魚病早期対策に関しては、農林水産省の平成27年度『農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業』(発展・融合ステージ)に『ICTを利用した養殖魚の感染性疾病予防システム構築のための基盤研究』が採択されており、今後は養殖環境中の病原体の詳細な動態の解明や、養殖魚の生理状態や病原体の毒性を元にした感染リスク評価などの解析を進め、魚病発生・流行予測システムの開発につなげたいと考えています。

 

3.事業化への展望

 今後は有害赤潮プランクトンや魚病病原体の発生パターンと、水質や潮流、気象などの物理的、化学的現象や、海洋環境中の他の生物種との相関を調べることにより、赤潮や魚病の発生・流行メカニズムの解明に取り組む予定です。このことにより宇和海における赤潮発生・魚病流行予測システムの構築につながることが期待できます。さらに、このシステムをパソコンや携帯電話などの情報ネットワークを利用して漁業者へ提供できれば、早期に生け簀移動や餌止めなどの予防措置や、必要最小限の投薬などの早期の対策をとることができ、被害を最小限に食い止めることが可能となります。現在、すでに愛南町で運営している「愛南町水域情報ポータル」のほかに、水産庁が運営している広域情報システムである「沿岸海域有害赤潮広域分布情報システム」などの情報システムがあります。この研究による情報システムの開発は、双方向での通信を目指したもので、愛媛大学理工学研究科(工学部情報工学科)の研究グループと共同でITCを利用して、生産者と自治体や愛媛大学南予水産研究センターが赤潮と魚病情報を相互通信するシステムの研究開発を開始しました。既存の情報ネットワークや、新たに構築する情報ネットワークを通じて、“赤潮早期警報システム”と“魚病流行予測システム”を宇和海全体に広く、効率的に普及させるための研究を進めたいと考えています(図4)。そして、本研究で構築したネットワークシステムを宇和海全域で運用することにより、宇和海の養殖生産力が格段に向上するとともに、優れた環境下で水産用医薬品に極力依存せずに養殖することによる「安心・安全」な未来型養殖環境管理システムの構築に繋がることが期待されます。

 さらに、本研究で確立する高感度モニタリングシステムは、生物特有の遺伝子情報を利用するために、他の海域の有害赤潮プランクトンや魚病病原体の早期検出に応用することが可能です。実際に、周辺自治体での導入も進められています。このことから、宇和海のみならず、我が国の養殖業全体の更なる発展に寄与することができると期待されます。

 


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