活用ストーリー(インキュベート・ルーム)

支援の種類
インキュベート・ルーム
創業を目指す方や創業後間もない方が、落ち着いた環境の中で新たな事業の創出や研究開発にじっくり取り組める支援スペース。
専門家が企業経営・技術・資金調達・販路開拓等のアドバイスをするほか、商談や応接に利用できる商談室や研修・会議などの企業活動を支援するための研修室・会議室などを手軽に利用することができる。
 
事業者概要

有限会社 愛トリノ
加齢による変形性膝関節症患者の保存療法に使用する治療用膝装具を研究開発し、病院・医療機器会社・義肢装具会社に提供している。
膝装具を構成する回動継手のメカニズムや動きに特有の技術があり、日本・アメリカ・カナダで特許を取得。特に国内では厚生労働省の完成用部品に指定され、パーツでの提供も行っている。

インタビュアー(イメージ) インタビュアーが訪問しました

 

本館3階のインキュベート・ルームは、それぞれ独立した部屋が20室あります。有限会社 愛トリノさんのドアを開けると、目に飛び込んできたのは足の骨の模型に工具類。壁にはたくさんの賞状や特許証が掲げられており、普通の事務所ではなく、研究開発をする場所なのだということが見て取れました。代表取締役の井上誠二さんが、机の上に開発された装具を数点用意して待っていてくださいました。井上さんは、「会社のホームページを持たないのは、ここに直接、装具を買いに来る人がいると困るから」と前置きされた上で、今後、BSOの利用を考えられる人のためになるのならと快くインタビューに応じてくださいました。
最初に、「変形性膝関節症」について詳しく教えていただきました。 (BY kikiko)

 

―― 多分ご近所かご家族にいらっしゃるかと思うんですが、お年寄りでね、膝が痛い人。
膝の関節には衝撃を吸収するクッションの役割をする軟骨があるんですけど、これが加齢とともにすり減っていくのね。特に日本人は、股関節から踵に直線を引いたそのラインから膝が外側にあるんです。だから筋力が落ちたりすると、だんだんこう傾いていきます。

― ずいぶん傾いてますね。

軟骨がすり減ってくると、(5段階のうちの)大体グレード3ぐらいから痛みが出て来るんですよ。家で我慢していたけれど、グレード3の中期ぐらいから病院に通い出すのね。
グレード4にもなると、もうほぼ上と下の骨が当たっています。

― 相当痛いんでしょうね。

この頃はもう杖をついて「痛い痛い」と言いながら歩いています。でも整形外科に行くと、「痛くても歩かんといけんよ」って先生は言われます。なぜかと言うと、歩かないと筋力がますますなくなっていくからです。

― 痛いと歩かなくなるし、そうするとますます筋力が落ちて悪循環になるわけですね。

そうです。この病気は、進行すると治りませんから、完治させるには人工関節置換手術が必要です。ただ、手術を希望してもそれができない人やしたくない人も多くいらっしゃいます。そういう人は、ウォーキングやストレッチ根気よく続けることで筋力を取り戻す=「保存療法」で頑張るしか方法はありません。
一日5000 歩ほど歩くのが良いのですが、歩行痛があるとなかなか続きません。
私が開発した膝装具は、膝を安定させながらダメージの無い方向へ誘導するので、歩行痛をあまり感じることなく運動を続けられる。つまり、補助具であり運動用具なのです。結果、それが筋肉強化・軽快な関節の動き・減量につながります。大切なのは「継続」です。

― わぁ~! それはどれだけ助かる方がいらっしゃることでしょうか!

特許技術のポイントは”三次元誘導と安定”です。歩行する脚の動きに追従して、装具そのものが形を変えながら膝軟骨に負担をかけない方向へと誘導します。その動きは、O脚・X脚・術後の安定用・・・などなど、症状や用途によって装具の構造や誘導の動きも異なる訳です。まだまだ研究段階のものも多いですが、治療用膝装具としてより多方面に展開してゆきたいと思っています。

― すごい技術ですね。

こういう形が変化して誘導するような装具は、世界レベルで見てもないんですよ。それでまず国内で特許を取って、それから全世界取る訳にもいかないので、まずはアメリカとカナダだけ出願したら両方とも通ったんですよ。

― すごい! おめでとうございます。確か県知事賞も受けられてますね。

4、5年前かな?

― これは、どこかで買えるのですか?

これは既製品ではないので一般販売はしていません。まず病院で診察を受け、医師が必要と認めれば患者さんの脚のサイズを採寸し、そのサイズに基づいて製作します。製作したものは医師がフィッティングを確認した後、納品になります。装具代金は償還払いですが、後期高齢者の場合は1割負担となっています。
人は動かなくなると病んでしまうから、このような補助具を使ってでも自立した老後を過ごせることを自ら努力しなければなりません。こういった高齢者の健康寿命を伸ばすことに少しでも貢献できればうれしいですね。

― これからますます高齢化社会に向かうので、本当に必要なものですね。素晴らしいですね。事業の概要についてよく分かりました。次に、BSOの活用をしてみようと思われたきっかけをお聞きしたいのですが。

やっぱり情報が欲しいわけですよ。2階に発明協会があるでしょう? 私の場合は特許の技術を駆使していろいろなことをやっているので、そことの繋がりがあれば情報が入りやすいんです。
私はね、特許を取れないような商品はやっても意味がないというのがあるんですよ。特許を取らずにいいものを作っても、結局みんなが「あーこれいいなー」と思って同じようなものを作るじゃないですか。特許を取っていればそれはできませんから。

― すごいですね。ところで愛トリノさんは今はこちらに入居されていますが、元々は別の場所にあったようなのですが?

私実はね、最初から愛トリノにいたわけではないのですよ。40歳半ばまである会社の開発部門に在籍し、その後独立したのですが失敗しましてね。路頭に迷っていた時、ある病院の整形外科の先生と仲良くなったんです。その先生から、「ぼくアイデアがあるんだけど、モノを作ることができないから、設計をお願いできないかな?」と言われて、「それでは手伝いましょう」ということになり、その病院の中にあった愛トリノに入職しました。その後、病院内での開発には限界が生じてきたりしたため、こちらに応募した訳です。

― そうだったんですね。ここを一番最初に知ったのは、誰かから教えてもらったというようなことはありますか?

もう何年も前からね、自分で見つけて気にはなっていたんですよ。やっぱりね、一人の力って知れていますから。いろんな活用できるものは活用して、知恵付けもしていただいてね。
ただし、ここに入るからには、何か新しいテーマがないと入れません。
ここでやりたいことは、予防医療用の装具。そのために特許を出していたものが、ちょうどタイミングよく登録になったんです。新商品の開発には多方面からの技術情報やアドバイス、それから補助金の活用も必要になります。ここには先ほどの発明協会さんや愛媛県中央会さんも入居されているので、何かと相談もできるのではと期待しています。

あと、1階のレストランでお茶や食事をしながらの打ち合わせは、気持ちが和み、とても有効です。

― 本当にいい環境ですよね。ここには何年ぐらい入れるのですか?

最長10年です。ただし1年に1回審査があります。新しいテーマ(予防医療用装具の開発)をやりますと言って旗揚げをしたじゃないですか。それが「どれぐらい進んでいますか?」というように聞かれるんですが、まずは特許が取れたからこれがものすごく大きい。だから今年はクリアですよ。

― すごい! 本当におめでとうございます。

でもね、予防医療の商品をやろうとしたら、本当に難しいんですよ。装着感や耐久性や・・・一番難しいのはデザイン!! 「あっ! かっこいいやん!」って思わせるようなデザインですよ。それで、どこの力を借りようかなぁ・・・とかね。
すごくハードルが高い開発テーマです。でも、医療費や介護費を使わない元気な高齢社会を構築できれば、日本の未来は明るいから!!  それに少しでも貢献できればうれしい。

― 高い志を持たれているのですね。それにしても、こういうもののデザインは難しいですよね。親身になってやってくれる人が現れるといいですね。あと、今後、こちらを利用される方のためにも、「ここが改善されるといいな」ということがありましたら、生のご意見をお聞かせいただけますか?

モノづくり開発には、デスクワークに加えて「商品の試作」が伴います。けれどここはデスクワークが主ですから、音を立てられないんですね。今後、新商品づくりを目指す企業やベンチャーを支援されるのであれば、多少の工作騒音が許されるような「試作室」などが必要です。是非、長期的な展望としてお考えいただけたらと思います。

― 私たちも今初めて気が付きました。そうですね。別棟でもそういうものがあるといいですね。では最後に、今後の展望およびビジョンをお聞かせ願いたいのですが、海外も視野に入れられているのですか?

アメリカ・カナダでせっかく登録になった技術も生かしたいとは思うのですが、年齢的に攻め込むエネルギーが残っていないかも知れません。どうしたものかと・・・。いずれにせよ、企業としての付加価値は高めておく必要はあると思っています。
肉体は消耗品で、老化は脚から始まります。今の治療用装具の事業を継続しながら、健康寿命を延ばして多くの人が人生100年時代を謳歌できるように、微力ながらもサポートできる予防医療的な商品の開発を目指します。

― 日本の医療も、予防医学の方に転向していますからね。すごいです。何だか今日はすごく勇気をもらいました。貴重なお話をお聞かせいただいてどうもありがとうございました。これからもぜひ頑張ってください。

Person

井上誠二さん画像井上 誠二(いのうえ せいじ)さん
有限会社 愛トリノ 代表取締役
愛媛県南予出身

趣味は、妻と2人でスキューバダイビング。
近頃は高知県の竜串や柏島などで、浅潜りを楽しんでいる。

 

インタビュー日:2020/1/11

支援担当者の応援メッセージ

初めてご挨拶した際、装具の話からなぜ膝が痛くなるのか、どういうことに気を付ければいいのかなど、とても丁寧に楽しそうにお話ししてくださったことがとても印象に残っています。
インキュベート・ルームは、創業準備室やプレインキュベート・ルームに比べ「自立」に向けて準備する場所ですので、ご自身で情報を取りに行く力も必要になります。財団には、BSOやよろず支援拠点をはじめ、同じ建物内に発明協会や中小企業団体中央会、道を挟んで産業技術研究所など、より専門的な支援を受けられる機関が揃っていますので、困ったら直接行って話が聞ける環境が整っています。愛トリノ様のような愛媛県が誇るものづくり企業にとってもさらなる成長の場となれるよう支援していきます。

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